AWS Well-Architected Framework の M&A レンズ(初版)をまとめてみた

AWS Well-Architected Framework の M&A レンズ(初版)をまとめてみた

Clock Icon2024.05.20

いわさです。

AWS Well-Architected Framework にはユースケースに応じて拡張する「レンズ」というものがあります。
AWS re:Invent 2023 で AWS Well-Architected Tool にレンズカタログというものが登場したので、昨年末に全てのレンズの確認を行いました。

その際に、ひとつだけドキュメントが存在しない謎のレンズ「M&A Value Creation Lens」というものがありました。
当時は公開情報が無く、どういうものかよくわからずにスルーしていたのですが、先日 2024 年 の 5 月 15 日にこの M&A レンズの初版ドキュメントが公開されていました。

このブログではこの M&A レンズについて簡単にまとめましたので紹介します。

M&A レンズとは

M&A レンズはそのままで M&A のシーンで適用する AWS ベストプラクティスとガイドラインを提供します。
M&A では異なる企業間でワークロード統合と移行が行われるので、技術的負債、最新化、知的財産、およびコンプライアンス分析に焦点を当てることで、スムーズな移行・移管を目指すという観点のレンズとなっています。

経営統合シナリオとしてもいくつかのケースが想定されています。
次のように異なる環境で統合される場合もあれば、オンプレミス中心の企業が AWS を使っている企業を統合する場合もあります。

引用元:Overview - Mergers and Acquisitions Lens

これ、おもしろいですね。
買収時にはその会社が保有するシステムのコンプライアンやセキュリティなどを整理しておく必要があるということか。

設計原則

Well-Architected のレンズなのですが、まず最初にドキュメントの「設計原則」を読むと良いです。
ここに 8 割くらいポイントが書いてあります。
ベストプラクティスについては概要のそれぞれの観点内でたまに出てきます。

表形式で課題とベストプラクティスをまとめてみました。こんなところでしょうか。

課題 説明 ベストプラクティス
アーキテクチャの違い 統合する企業のITシステムが異なるアーキテクチャ、技術、プラットフォームを持つため、シームレスな統合が難しい。 共通点と相違点を明確にし、統合組織のニーズを満たす統一アーキテクチャを開発する。
運用の違い 統合する企業のシステムが異なる運用プロセスと手順を持つため、シナジーを生み出すのが複雑で時間がかかる。 明確な統合計画を策定し、必要なリソースを確保。文化的な課題にも対応し、優秀な人材を保持・獲得する。AWS Organizations や AWS Control Tower のマルチアカウント戦略を採用したり、CloudWatch や Systems Manager を導入し運用効率を向上させる。
セキュリティ要件 各企業が異なるセキュリティプロトコル、ポリシー、プラクティスを持ち、それが統合時にセキュリティリスクを引き起こす可能性がある。 徹底的なセキュリティ評価を行い、統一されたセキュリティ戦略を策定。AWSのセキュリティ機能を効果的に活用する。Security Hub や AWS Config を組織的に適用する。
コンプライアンス要件 異なる業界や地域で運営する企業の統合は、複雑なコンプライアンス要件をもたらす。 徹底的なコンプライアンス評価を行い、統一されたコンプライアンス戦略を策定。
ガバナンスモデル ITリソース管理や意思決定プロセスのガバナンスモデルが異なるため、統合時に衝突やボトルネックが発生する。 両社のニーズと要件をバランスさせた統一ガバナンスモデルを確立し、ビジネス目標に合致させる。
コスト最適化 統合に伴うコストが予想以上に高くなる可能性がある。 AWS Cost Explorer やRI/SP を活用し、コストを監視・最適化する。統合後も AWS Trusted Advisor などを活用して継続的にコスト管理を行う。

アーキテクチャー的なところではなく、事前の情報整理や戦略を立てるところも多いですね。
ベストプラクティスを実践することで、M&A の統合プロセスがスムーズに進行し、コストやリスクを最小限に抑えることが可能とのことです。

柱ごとの設問まとめ

実際にレンズを使う際には Well-Architected Framework とあわせて、M&A の設問にも答える形になります。
前述のとおり Well-Architedted Tool でも全てにレンズが使うことが出来ます。

本日時点で日本語対応されていませんが、リージョンに関係なく利用は可能ですので活用しましょう。

以下では M&A レンズ追加の設問 23 個についてまとめました。
設問への選択肢はいくつかあり、量が多いので詳細はドキュメントや Well-Architected Tool を見ていただきたいですが、イメージが付きやすいように回答例として設問選択肢のひとつを抜粋してみました。

運用上の優秀性

設問ID 設問内容 回答例
MAOPS 1 会社とプロセスをどのように構築してM&Aをサポートしますか? 両組織のワークロードに責任者を割り当てる。
MAOPS 2 セキュアなマルチアカウントまたはマルチクラウドAWS環境をどのように設定して統治しますか? AWS Control Tower、AWS Config、AWS CloudFormationを設定する。
MAOPS 3 統合されたAWS Organizations戦略は何ですか?クロスクラウドのガバナンスをどのように扱いますか? AWSのベストプラクティスに従って組織を構築する。
MAOPS 4 技術的負債が新機能の開発、ホスティング効率、またはコスト削減にどのように影響しますか? 重複するアプリとデータストアを廃止または統合する。
MAOPS 5 明確なタグ付け戦略を持っていますか? AWSリソースタグを設定する。
MAOPS 6 買収後の主要な業界知識、知的財産(特許やアルゴリズムなど)、およびオープンソースツールをどのように使用しますか? 売り手がすべての知的財産と主要なイノベーション(および関連文書)のリストを持っている。
MAOPS 7 統合された組織のための製品イノベーションロードマップをどのように優先し、開発しますか? 統合された製品戦略を文書化する。
MAOPS 8 両組織の製品チームは、取引の合理性と内部組織化にどのように一致していますか? 両製品チームが協力して運営するためのメカニズムを文書化する。
MAOPS 9 統合された製品チームは、顧客の検証を伴う製品仮説、プロトタイピング、およびテストをどのように整理しますか? 構成管理データベース(CMDB)またはインフラストラクチャリポジトリを作成する。

セキュリティ

設問ID 設問内容 回答例
MASEC 1 ユーザーおよびアプリケーションのアイデンティティをどのように管理しますか? 中央集権的なIDプロバイダーを使用する。
MASEC 2 どのセキュリティツール(AWSまたはサードパーティ)を使用していますか? AWSサービスを使用して自己サービスを既存の管理コンソール内で実行する。
MASEC 3 データセキュリティのポスチャーをどのように維持しますか? 組織全体でデータ分類と保護の一貫したメカニズムを作成する(転送中および保存時)。
MASEC 4 会社(買い手)がコンプライアンスと規制のニーズに自信を持つにはどうすればよいですか? 買い手と売り手の両方のコンプライアンスニーズを理解する。
MASEC 5 ネットワークセキュリティのポスチャーをどのように維持しますか? 両組織がネットワークアーキテクチャを文書化している。

信頼性

設問ID 設問内容 回答例
MAREL 1 M&A中にアプリケーションの堅牢性と可用性をどのように管理しますか? 必要な業界および顧客の期待に応じてフォールトトレランスを組み込む。
MAREL 2 プラットフォームの機能を維持するために、重要な外部システム統合をどのように高可用性で設定しますか? 必要に応じて切り替え可能な各重要な外部サービスの代替手段を確立する、またはトラフィックを分散する。

パフォーマンス効率

設問ID 設問内容 回答例
MAPERF 1 2つの組織間で最もパフォーマンスの高いアーキテクチャをどのように選択しますか? 利用可能なサービスとリソースを理解する。
MAPERF 2 顧客の負荷が増加する中で、プラットフォームはどのようにスケールし、パフォーマンスを維持しますか? 手動または自動の手段で現在のアーキテクチャとホスティングをスケールする。

コスト最適化

設問ID 設問内容 回答例
MACOST 1 両社のAWSホスティングにおけるコスト最適化はどのように進行していますか? 両社のエンティティの価格モデル分析を行う。
MACOST 2 統合された組織の使用状況とコストをどのように監視しますか? 両社の情報をコストと使用状況に統合する。
MACOST 3 M&A後のデータ統合に必要なデータ転送とストレージの料金をどのように計画しますか? データ転送コストを最適化するためにコンポーネントを選択する。

持続可能性

設問ID 設問内容 回答例
MASUS 1 買収した会社が我々の持続可能性目標に一致していることをどのように確認しますか? デューデリジェンスを実施する。
MASUS 2 買収後の統合プロセスにおいて持続可能性を優先するにはどうすればよいですか? サステナビリティ委員会を設立する。

さいごに

本日は AWS Well-Architected Framework の M&A レンズ(初版)をまとめてみました。

組織統合に伴ってのシステム移管についてご相談を頂くこともあり、地味にこのレンズの使い道多いのではないかと思いました。
専門用語がいくつか出てきて難しいなと思いましたが、レンズをきっかけにそれらも知っておきたいですね。

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